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6年生の今月の本


少年カニスの旅 タイトル 少年カニスの旅
著者 浜野 えつひろ
出版社 パロル社
 

 凍(こご)えるような寒気のなか、カニスは方向感覚を失っていた。11歳になったばかりの少年カニスは、残念ながら初めての狩(か)りに失敗してしまったようだった。一緒にきた仲間とはぐれてしまったのだ。このはれの日のために母さんが仕立ててくれた真新しいカリブーのチョッキとアノラック、背中には父さんからもらったお古のライフルもくくりつけている。かっこうだけは一人前なのに……。早く手柄を立てようと、一人で道をそれて針葉樹林の奥へとわけ行ってしまったのがいけなかったのだ。

 そうこうするうちに、あたりがだんだんと白く不透明(ふとうめい)なガスにおおわれてきた。

「このまま、夜になったら凍え死んでしまうよ。はやく、この森から抜け出さなくちゃ」 

 どのくらい歩いたのか、カニスにもわからなくなったころ、カニスはついに深い森の中から抜け出すことに成功した。切り立ったがけの上からはるか遠く、斜め下の方に住み慣れた村が見下ろせたそのときだ。がさっ、とすぐ横の尾根(おね)から何者かの気配がした。
「救(たす)けかな?」
そう思って音のした方を見ると、ふいにカニスの前に、銀白色の獣(けもの)の顔が現れた。オオカミだ。

 しかし、この状況ではいくら銃を持っていてもカニスの方が弱い。にらみあうカニスとオオカミの沈黙を破ったのは、人間たちの声だった。
「こっちだ」
「こっちに足跡がある」
その声はだんだんと大きくなり、カニスのほうへ近づいていた。
「救けに来てくれたんだ!」
そう思った。ところが……
「よし、撃(う)て!」

ダッーン!

耳をつんざくような銃声とほぼ同時に、カニスのうでに熱い痛みが走った。カニスはオオカミと間違えられたのだった。撃たれた衝撃(しょうげき)でバランスをくずし、切り立ったがけの下へと落ちていったカニスが、後に人々の手によって発見されたとき、誰もがカニスはもう助からないと思った。それほど、カニスの怪我(けが)ははげしかったのだ。

 ところが日がたつにつれ、信じられないようなスピードでカニスの体は回復していった。それだけではない。目覚めた後のカニスは、もう以前のカニスとは違っていたのだ。走れば村の誰よりも速く、身のこなしもすばやい。おまけにかけ回るほどに体の動きがよくなる。村の子どもたちと鬼ごっこをやったときなど、カニスはおもしろがって数メートルおきに置いてある材木の山を三段飛びのようにびゅんびゅん飛び移ってみせたほどだ。

「ぼくは、ぐずじゃないんだ!」
狩りの失敗で自信を失っていたカニスの目に、まぶしい光が戻っていた。ところがある夜、息ができないほどの痛みと苦しみがカニスの体をおそい、カニスは血を吐いて気をうしなった。翌朝、目をさますと、ベッドの上には一頭の見知らぬおおかみがすわっていたのだった。

【 ある日突然おおかみに変身してしまった少年カニス……カニスは人間たちの手をのがれてオオカミのむれのなかで生活を始めます。オオカミとして生きるうちに、人間のもつ残酷さや傲慢さに気づいていくカニス。人間として生きるべきか、それともオオカミとして生きるべきなのか。カニスの長い旅が始まります。】

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