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6年生の今月の本


八月の金貨 タイトル 八月の金貨
著者 山中 恒
出版社 あかね書房
 

「沢(さわ)の端(はた)の小学校のわきの道を北へむかっていくと、暗闇沢ってとこがあってな。そこにゃあ泥棒(どろぼう)が金貨をかくしたという話があって、むかしはちったあ評判(ひょうばん)になったもんよ。」

---「どういうもんか、あの沢へ入ると、右も左もわからなくなっちまうっていうんで、『暗闇沢(くらやみざわ)』って名がついたんだよ。木がうっそうとおいしげっていて、昼でも暗いし、変に湿気があって、風の夜には、暗闇沢で死んだ人たちの魂(たましい)が集まって、泣くというそうだからね。」

  研治の家は、バス停のそばで 「オアシス」 という喫茶店をやっている。夏休みの終業式を終え、家に戻ると、店には常連の相沢さんと、絵描きさんがきていた。「ねえ、研ちゃん。まちがってもイジメなんかするんじゃないよ。そんなことをしたら、いつかはその子にうらみを晴らされるんだからね。」

 相沢さんは子どものころ、戦争中に疎開(そかい)先でイジメをうけたことを今でも忘れず、自分をいじめた子のことを憎み続けているのだと言った。いつもあいその良い保険屋のおばさんとはまるで別人みたいなおそろしい顔に、研治は本気でおびえてしまった。

 なぜなら、研治自身、自分が気づかぬうちにクラスメイトの一人をいじめ、傷つけてしまっていたことを、さっき知ったばかりだったからだ。
「覚えてろよ!」
といったあいつの声が耳についてはなれない。出だしの悪い夏休み……だけど、気になることはまだあった。

 八並(やなみ)のおじさん (おじさんは、いとこの信子の義理のお父さんだ) の 「八月病」 がまた出たのだ。おじさんは終戦になった8月が近づくと、毎年きまっておかしくなる。

「……人間はだれだってずーっと日の当たる大通りばかり歩けるとはかぎらない。ときには、裏道のよごれた路地(ろじ)をこっそりとぬけることだってあるんだ。」

遠い目をして、他の人のことなんか忘れてしまったみたいにつぶやくおじさんの横顔がこわかった。 研治にとっては、遠い昔のことのように思える 「戦争」 という言葉が、この夏はやけに近くに感じた。

 そしてそのとおり、研治と信子の二人は、ひょんなことから1945年8月14日、つまり太平洋戦争終戦の前日にタイムスリップしてしまう。なんとそこには少年時代の八並のおじさんがいた……!

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