新学期が始まる前の晩、イリンはどこか「遠いところに行きたい」と思いました。夏休みの初めには、学校に行かなくてもよい日が永遠につづくような気がしていたのに、また学校にもどらなければならないのがたまらなくいやだったからです。すぐにかっとなって周りが見えなくなる性格がじゃまをして、いつも友達とうまくいかないイリンは、自分のお母さんに対しても心を開けません。

　ある日、メトロポリタン美術館の中にある古代エジプトのお墓(マスタバ)に間違って入ってしまったイリンは、そのまま現代のニューヨークから古代エジプトの世界へと迷いこんでいます。ところが、せっかく望みどおりの「遠いところ」にやって来たというのに、イリンの周りにいるのは、あいかわらずニューヨークの両親や友達で……。