受験前日、「どうしよう。俺だけどこにも合格もらえなかったら……。」と息子が不安そうに言った。わずか十二歳で精神面も含め大きな戦いに挑んでいることを改めて感じた。
私は今までの息子の努力を称え安心させることが親に出来る最後のサポートだと思い、「今までよく頑張ったね。結果は気にせず自信を持って、とにかく後悔しないように頑張っておいで。お父さんもお母さんも頑張ってきた君を誇りに思っとるよ。絶対に大丈夫!」と力強く息子へ言った。そして、六個の天満宮のお守りを鞄に結び、首には「合格」の文字が刻まれた縁起札をかけてやった。友達や先生からの応援メッセージも鞄に入れた。そうやって、本番でどうか強い精神力を持って頑張れますようにと願うことが精一杯だった。すると息子の顔には照れ笑いの中にも自信が蘇った様な笑みがこぼれた。
我が家は共働きで共に夜勤もしており、スケジュールを合わせるだけでも一苦労。家事に加え、塾の送り迎え、塾へ持参するお弁当作り、息子たちのサポートなど……親にとっても今まで以上に忙しく大変なものになった。初めての中学受験は、正に息子の頑張りと家族の協力あってこそ成し得たことだと思う。
保護者説明会においては、親の心得や学習の進め方を教えて頂き、我が家にとって力強い道標になった。特に印象に残ったことは、テキストを信じて最後までやり通すことと、日々の努力こそ大事であるということだった。
夜更かしが苦手な息子にとって就寝時間は二十一時三十分がタイムリミットだった。朝は通学班で三㎞の道を徒歩で通学しなければならないため、六時に起床し七時に登校した。学習時間が足らず学校や塾の宿題だけで精一杯のこともしばしばだった。しかし、健康を保つために生活リズムは大きく変えられないので、限られた学習時間を有効に使うことが大切だと思い学習計画を親子で立てた。そして、「決めたことは、あせらず、たゆまず、怠らず」を合い言葉に日々やるべきことを集中してやっていくように声をかけた。
本番まであと数か月と迫った頃。不安と焦りから私は息子に対して感情に任せて余計なことを言葉にしてしまった。その後すぐに、「子どもが辛い時こそ親が冷静に適切なサポートをしなければ……」という先生の言葉を思い出した。親としての未熟さを痛感し後悔の念でひどくへこんだこの出来事を夫に聞いてもらった。そして、「これからは、人と比べず息子の出来るようになったことや頑張ったことを褒めよう、如何なる時もポジティブに、結果が悪くても復習や対策のチャンスと捉えよう。」と話し合い決めた。なかなか難しいミッションだったけれど、いろいろと勉強させてもらったと思う。
親子でいろいろな経験や努力を重ねた中学受験が終わった……。この長い道のりを、苦しくても途中であきらめず歯を食いしばって走り続けた息子ら受験生を私は心から立派だと思う。重たい鞄を背負って、雨の日も風の日も雪の日も振り向くことなく、塾の急な階段を傾きながら上っていく息子の後ろ姿。その姿に「頑張れ~。」と心の中でエールを送ることしか私は出来なかったけれど、息子は自分で選んだ道を自分で懸命に進んだ。そして、最高の達成感や喜び、そして生きていく上でかけがえのない宝物に巡り合わせてもらった。