「もう受験なんかしなくていい!」
我が家で初めての中学受験本番まで2週間を切ったある日、リビングに怒声が響いた。気の緩みからか、はたまた現実逃避か。親に隠れてこそこそと趣味のクラッシック鑑賞を楽しんでいた息子に落ちたカミナリは、受験に対する心構えの甘さをとがめるものだった。
振り返れば4年生の半ば、本人の「もっと難しく面白い授業が受けられる中学校に行きたい」という希望から始まった中学受験。学校生活はもちろん、本人にとって生活の一部となっているピアノも手を抜かずに頑張ると言う。そこで、あえて「受験生だからといって特別扱いはしない」というルールを決めた。自分の事は自分でやる、決めた事は責任をもってやり遂げる、時間を守る。結果がどうであれ、受験勉強を通してひとりの人間として成長して欲しいとの願いからだ。そんな我が家の方針から、迷わず家庭学習研究社を選んだ。
始まってみるとあっという間に駆け抜けた2年間だった。分からない問題に出くわすと、私に解説を求める息子。私自身も解いたことのない難解な問題を前に、いかに分かりやすく、かつ本人が解答を導きだせるよう解説するか頭を悩ませた。私の解説で納得出来ない様子であれば、塾で各教科の先生方に質問するよう勧めた。そうして理解を深めていき、マナビーテストをはじめ塾内のテストでは比較的順調に結果が出て、本人も自信をつけていったように思う。
一方で、親子共々少なからず慢心があったのも事実である。模試での思いがけない成績に落ち込む本人に、私自身の反省も込め、「満点を取る必要はないから、解ける問題から手を付けていこう。どうしてもわからない問題は諦めよう。それよりも他の問題の見直しをしっかりしよう」とアドバイスをした。実践したところ、その後の模試では安定した成績を残すことが出来た。ただ、あくまで模試の話である。まだ何かを成し遂げた訳ではない。何より必要なのは、入試本番で普段通りの実力を発揮し、合格を勝ち取ることなのだ。
そのために、親としては規則正しく生活し、体調を万全に整えるよう繰り返し説いた。学校の発表会で(本人の立候補により)ピアノ伴奏を担当することになり、塾の課題が増えていく中、ピアノのレッスンは12月いっぱいまで続いた。そして、最後の2週間は塾の課題と過去問対策をこなす中で、十分な睡眠時間を確保するよう何度も声をかけた。どこまで行っても受験するのは本人であり、万一体調を崩しても代わってやることは出来ないのだから。
そんな親心にはお構いなしで、好きなテレビ番組に心奪われ、妹とふざけて時間を思いきり浪費する。最低限やると決めた家の手伝いも疎かになり、おまけに親に隠れてこっそりクラシック鑑賞とは、何と優雅なこと!油断するな、足元をすくわれるぞといった調子で落ちた、冒頭のカミナリであった……。
結果として、第一志望校への切符を掴むことが出来た息子だが、それは本人の努力だけではなく、塾の先生方をはじめ本当にたくさんの人々の惜しみない協力の賜物である。そのことに対する感謝の気持ちを決して忘れることなく、新たな世界へと羽ばたいていって欲しいと願ってやまない。