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2020年度の作品

No.6 『 娘との二人三脚 』清心中・広島女学院中・広島なぎさ中/Sさん

 娘が通塾を始めたのは四年生の冬期講習だった。志望校ははじめから決まっていた。
 第一のハードルは入塾後しばらくたった頃のこと。真面目に取り組んでいるように見えるのだが、思うように成績が上がらない娘。まずは、テスト前に出来なかった問題に一緒に取り組み、マナビーテストの結果にアップされる正答率の中で、★三つまでの問題の攻略を試みることにした。
 目標は百番以内。この二つをやることで成績が上向いてきて、少しずつ目標校が射程圏内に入ってきた。同時に、毎回のテストの振り返りと次のテストへの目標設定を繰り返させた。
 第二のハードルは六年生に入る前の春休み。ある出あいが起こってしまった。それは「名探偵コナン」との出あいだった。華奢な体格の娘は十分な睡眠時間が必要なため、それまでも時間の使い方が大きな課題だった。お楽しみに時間を費やすと、余った時間で勉強時間を確保することが難しくなる。
 娘の激しいコナンブームが二ヶ月ほど続いた時点で、先生に相談に行った。先生からは「出あってしまったものは仕方ないんじゃないですか……」との返答。確かに仕方ない。しかし、このままの勉強の姿勢を許容するわけにもいかず、娘と話し合った。話し合いの結果、勉強の合間にコナンタイムを取ることで娘との合意を得た。その後はコナンの動画を見ることを息抜きにしながら勉強に取り組んでいった。
 第三のハードルは入試直前の冬休み。それまでに済ませておくべき「最終チェック」も十分に処理されないままに冬休みに突入。授業の予習復習に迫られながら、プラスの勉強時間を確保することは娘にとって容易なことではなかった。勉強時間を増やさないとやるべきことが終わらないよ、と伝えてはみるが、ペースは変わらない。
再度先生に相談の電話を入れた。「そんなもんです」と先生。望んでいた処方箋は得られなかった。なす術もなく、様子を見守るしかなかった。
 正月が明け、演習問題の出来具合を確認してみることにした。チャレンジ問題どころか、解けるべき問題をたくさん落としていた。私はにわかに焦り始めた。間に合わない、そう思った私は、「今のペースのままでは欲しい結果が手に入らなかったときに絶対後悔するよ」と娘に迫った。後悔したくないのは私のほうだった。もっと早く気付けばよかったと思った。焦る私の思いを受けて、娘はピリピリし始めた。
 その状況が一変したのは、冬休みの実戦演習の志望校別判定が返ってきたときだった。本命の志望校の合格判定はプラスマイナス0とプラス7。私の気持ちが一気にポジティブに変わった。これなら大丈夫、絶対受かる。そう思った私から娘にかける言葉が変わり、家中の空気が変わった。同時に娘も自信を持ち始めた。
 私は演習問題や過去問、やるべきプリントの仕分けを開始した。演習問題を整理し終えた時、夜中の二時を過ぎていた。最後の二週間、毎日の娘の課題を振り分け、スケジュールを細かく設定し、進捗状況を確認した。自分のお楽しみの時間を封印し、娘に付き添った。おやつを手作りしたりしながら、メンタル面のサポートにも気を配った。
 とても終わるはずはないと思っていた課題の量だったが、設定されたスケジュールに従って娘は勉強を続け、目の前に積まれた課題を終わらせた。ここまで出来れば親としてもう後悔はない。娘に「これだけ頑張ったから、どんな結果だったとしても大丈夫。あなたはよく頑張った」と声をかけた。
 女学院から始まった三日連続の試験、本命の清心は二日目だった。女学院の試験の手応えは今ひとつだったようだが、肩を落とす娘に明日に向けて調子を整えるよう促した。次の日、清心の試験会場に向かう娘の表情はとても落ち着いていた。結果は合格。最後までやりきった娘を頼もしく思った。

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