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2014年度の作品

No.8 『 桜 』   女学院中・近大附属中/Iさん

「300番がない。」
と私は清心の合格発表の画面を見てつぶやいた。
「よくがんばったよ。」
となりを見ると母は泣きながら画面を見ていた。その言葉を聞いて私は清心に落ちたことを初めて実感した。と同時に涙があふれた。閉じたまぶたの裏では、あの日のことが映し出されていた。
 あの日――。五年生の夏休みのこと。母に塾に行くことを勧められ、説明会に行った。説明会の担当の先生がこれからの勉強のことを説明しやすいように例題を出した。最大公約数と最小公倍数の問題だった。今なら分かる。しかし、当時の私は小学校の勉強しかしておらず、全く意味が分からなかった。ここの塾でやっていけるか不安になった。家に帰ってやっぱり行きたくないと泣きじゃくった。
 でも、塾に通い始めると友達もすぐにでき、通うことが苦しくなくなった。塾の予習をして復習をする日々はあっという間に過ぎていった。
 どんどん月日がたっていよいよ清心の入試日が来た。すいみんもしっかりととることができ、準備も万たんだった。この坂を毎日登れるかなあと思いながら長い坂道を息を切らしながら登り、塾の先生達のところへ向かった。いつもと変わらない雰囲気で、話をしたり、励ましのあめをもらったりしていたら心も落ちつき、がんばれそうな気がしてきた。私は算数がとても苦手だったが、本番では自分なりにたくさんうめることができた。
 帰りの電車の中。母が
「あっ、十五時じゃ。女学院の発表がでとるよ。」
と言った。女学院は思いどおりに力が出せず、不安だった。だから、母から渡されたスマートフォンを見るには、勇気が必要だった。ええい、どうにでもなれ!と画面をタッチしたしゅんかん、表示されたのは「合格」の文字だった。
「やった。受かってた。」
電車の中だから大きい声は出せないけど、心をしめつけていた不安から解放された喜びを味わっていた。「自信がなかったのに受かるんなら、まあまあできた清心も受かるよね。」とまるで現実から逃げるように自分を納得させていた。
 受かるかもしれないと期待していたからなのか、清心に落ちたと分かったときにショックが大きかった。家族から、
「女学院もいい学校じゃけん。よかったじゃん。」
と言われても心がチクチクと痛むだけだった。
 数日がたち、氷がとけるように立ち直れてきた。母が言ってくれた、
「大丈夫。つらい思いは時間が解決してくれるよ。」
という言葉は本当だったんだと思った。

 五年生のときのあの日からの長い期間、がまんしてがんばったから今があると思うし、清心に落ちたときのショックがこれからおこるであろう逆境に立ち向かえる心に育ててくれたとも思う。私をむかえ入れてくれた女学院という素敵な学校へ通えることに幸せを感じ、精いっぱいがんばっていきたい。

 最後に、受験生のみなさん、私なりの考えです。桜は咲くときも散るときも美しいです。つまり合格して夢がかなうときも、がんばったけど夢がかなわなかったときも、それまでの努力があったからこそだということだと思います。みなさんの桜が美しく咲きますように。
2014_08

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