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2017年度の作品

No.5 『 七転び八起き 』清心中/Sさん

 転んでも起き上がる、立ち上がって次に進む。これが私にとって一番つらいことだった。その重い試練はいつも、私につきまとっていた。
 思えば一年前。遅いスタートをきった私には、覚えることややらなければいけないことがたんまりあった。それでも私と母は、ぎこちないステップではあったが、短い五年部を二人三脚で走り抜けた。
「六年生の夏が勝負!」この言葉は私の不安を大きくしていった。大丈夫と思っていた算数の成績が落ちていったのだ。まるで、私が今まで油断していたことを証明するかのようなその点数を前に、私は母に視線を向けた。てっきり励ましの言葉かと思いきや、
「あんた、算数をナメとったじゃろ。」
と予想外の言葉を言われてしまった。そして、夏休みは何の自信も得ず幕を閉じた。
 私の頭の中にはいつも、「清心」があった。あの長い坂。笑い合う友達。高度な授業。私はその魅力に吸い込まれていくようだった。
「市販の過去問は買わなくて良い。」
その塾の教えを忘れて、母に本屋の過去問を買うよう頼んでしまった。母はまゆをひそめていた。秋の半ばだった。
 時間をはかって解いてみた。難しい……。清心の理科は手強く、半分もとれそうになかった。悲惨な解答用紙を見つめる私に母は言った。
「塾がせんでもいいって言うとる市販の過去問をわざわざしてから涙目になって傷つくことなんかない。もうせんでええ。あんたには十分力はついとる。夏期テキスト、最終チェック、完全チェック、テスト直し。これだけやっときゃええんよ、塾を信じてがんばりんさい。」
母は強く背中を押してくれた。よし、冬期講習がんばろう、冬が本当の勝負に感じられた。
「清心に行きたい。」その思いは私のやる気の源だった。「清心対策ノート」を作り、休みの日には塾の類似問題やテキストから引用した過去問を綿密にした。正月休みの宿題は、答えを書いてある所にガムテープをはり、もう一度解いた。算数には全力を注いだ。
 入試初日の前日。父が手紙をくれた。私の受験の事に関心が無いように見えた父だった。だからこそ、手紙には驚くばかりだった。
「己に勝て!!」
ぶっきらぼうな字でそう書いてあった。堅苦しい言葉にも優しさが感じられ、嬉しかった。
 
 一月二十三日。清心合格発表日。父の手紙。母の言葉。その全てに感謝だった。そして、
入試で一番手ごたえがあったのはあの算数だった。今までがんばってきた甲斐があった。坂を登りながらそう思っていた。あれだけがんばって落ちていても、もう潔く公立の中学に行くことができると思った。坂の頂点に達していた。
「105番……あった!あった!あった!!」
母が、「エッ、どこどこ!?」と番号を探し出す。「よっしゃあ!!。その目には、熱いものがこみ上げていた。今までの約一年は、この喜びの為に月日を経て、その喜びは感動へと変わり、私の努力によって完成したのだ。
 転んでも起き上がる。これは、たくさんの達成感を味わうために必要なものだ。転ぶ事が失敗?いや、違う。本当の失敗は起き上がろうとしないことなのだ。
 仲間から学友へと、新たな一歩を踏む。私はその時が待ちどおしい。そして、何よりも、私は、家庭学習研究社の一員であれたことを誇りに思う。

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