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2021年度の作品

No.1 『 受験は「幼さとの闘い」』
広大附属中・県立広島中・広島学院中・修道中/Hくん

「だったら塾辞めればいいんじゃろ!!」
そう言ったものの本心ではなかった。本当に辞めたい訳ではない。学校の勉強をおろそかにする僕に、元々受験に大反対だった母が言った言葉、
「学校のこともちゃんとできんのに、塾なんか行かんでもいい!」
それに対してつい言ってしまっただけなのに……。
売り言葉に買い言葉。それなのに、父は次の日には塾へ電話をし、僕の思いとは逆に、辞める方へと進みだした話は止められなくなり、僕はもう、
「辞めたくない。」
とは言えない状況に追い込まれていた。
 塾へ入る時に母とした約束が、「学校のことをおろそかにしない」だった。時が経つにつれてその約束は頭の片隅に追いやられ、学校の準備や宿題を後回しにしていた。だからといって塾に全力を傾けていた訳ではない。ただ単に怠けていただけだった。そんな後ろめたい気持ちもあって、思わず強い口調で塾を辞めると宣言してしまった。
「辞めたくない」、たった6文字の言葉なのに、僕の口からは出なかった。いや、とても出せなかった。
 受験に対して反対する母を説得してくれたのは父だった。
「やるって決めたんならやらせてやれ。」
そう言ってくれた父も、僕の「辞める宣言」を聞いていた。そして塾へ辞めると電話したのだ。もう辞めるしかない、そう覚悟を決めた。
 それなのに、話は急に辞めない方へ変わった。相変わらずおこっている母に父は、
「まぁ、もう少し塾を続けさせてもいいんじゃないか?」
と言った。何かがおかしい。僕の知っている父なら、こんなに簡単に考えを変えることはない。しかし塾が続けられるという喜びで、僕は深く考えなかった。
 そして僕の受験は始まった。最初は叡智学園だった。結果は「不合格」。合格していると思っていた僕にとって、この結果はショックだった。でも家族の前では恥ずかしくて、
「どうせ本命前の練習だったし~。」
と負け惜しみの言葉を口にした。
すると、父が僕を他の部屋へ連れて行き、
「何で塾が続けられたか分かるか?」
と聞いてきた。てっきり不合格の話だとばかり思っていた僕が、何も答えられずにいると、
「弟が『兄ちゃんは絶対に塾を続けたいはず。俺は塾に行かんけん、俺の分で兄ちゃんの塾を続けさせて。』って頼んできたんで。」
 いつもは僕とけんかばかりしている弟が、父に頼んでくれていたのだ。
「ゲームもテレビも『兄ちゃんのため』って我慢しとるんで。それなのにお前は言い訳ばかりして、恥ずかしくないんか!晟郷に胸張って、一生懸命努力したけど不合格だったって言えるんか!」
 不合格を知ったときにも涙は出なかったのに、その話を聞いて涙が止まらなかった。僕は何も知らなかった。そして弟に、「頑張って勉強している」と胸を張れるほどの努力もしていなかった。
 それからの僕は変わった。弟にとって恥ずかしくない兄になりたいと本気で思った。そのためにも残りすべての学校に合格して、弟に「兄ちゃんすげぇ!」と思わせたかった。
今までは合格できたらいいな程度の気持ちだった。でももう違う。弟の分まで背負っているのだ。もう絶対に落ちる訳にはいかない。「時間が足りない」、「もっと前からやっておけば」、そう思う時間すらもったいなかった。
 すべての受験を終えて、結果は合格4校、不合格1校。弟にとって少しは自慢できる兄になれたのだろうか?弟には感謝の気持ちを伝えたい。でも恥ずかしくて、いまだに口にできていない。弟がこのGETを読んで、この気持ちが少しでも伝わるといいのだが……。
 受験は辛く苦しいかもしれない。でも大丈夫。君たちは決して一人ではない。家族や先生、一緒に勉強している仲間がいる。そして、受験の先にはきっと成長した自分が待っている。僕が「弟の優しさ」に気づいて成長したように……。

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